南仏の数ある鷲ノ巣村の中でも、最も有名で人気があるのがここエズではないだろうか。団体の観光客も多く訪れ、さすがに観光地化され過ぎた面も否めないが、それでも尚、一見の価値のある美しい鷲ノ巣村だ。

 地中海を望む断崖絶壁の頂きに張り付くように作られたこの村は、まさに外敵の侵入を阻む要塞のようで、入り組んだ道やたくさんの階段で登って行くだけでも大変だ。しかし、美しく整備された石畳、中世の趣たっぷりの街並み、かわいらしいブティック、何件ものアトリエ、レストラン、と寄り道しながら歩いていくと、大変なはずの道も最高に楽しい散歩道となるから不思議だ。エズ村の素晴らしさは、この地の人々が早くからこの魅力に気づき、その特徴を最大限に生かしながら誰もがワクワクする魅力的な村づくりをしてきた事にあると思う。大型のショッピングモールが全盛の今の時代に、人々が本当に楽しい気分になれる雰囲気とはどんなものなのか、ひとつのあるべき姿を具現化しているのではないだろうか。

 頂きの頂上には庭園があり、たくさんの植物とアートで素敵に演出されている。そしてこの庭園からの眺望がエズ一番の魅力かも知れない。地中海とその美しい海岸線を一望する眺め、絶景とは正にこのことだ。庭園の至る所に置かれたベンチに座ってこの景色を眺めていると、しばらく時間を忘れてしまいそうだ。

エズと言えば、村の中に有名なシャトーホテル、シャトー・エザがある。シャトー・ド・ラ・シェーブル・ドールという5★ホテルもあるが、私は断然シャトー・エザの雰囲気が好きだ。かなり値は張るが、予算が許せば地中海の見える部屋に泊まり、レストランで優雅な食事をすればこの上なく贅沢でゆったりとした時間を過ごす事ができる。たまには計算された美しさに浸ってみるのも一興だ。

 町や村はこれからどんな方向へ発展して行くべきか？エズはそのひとつの答えを示しているのではないだろうか。